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創作小説 「矛盾」

 愚かな、と博士は今年も呆れていた。
 研究室から一歩外へ踏み出せば、個数を競い合う男子高校生達とすれ違う。夕食の材料を買いにスーパーへ寄れば、板チョコを手に悩んでいる様子の女性。家へ向かって商店街を歩けば、あちこちから甘い匂いが漂ってくる。

 二月十四日。今日がバレンタインデーなる日であることは、世界トップクラスの彼の頭脳にも当然蓄えられている知識だ。また、日本独自の発展状況についても博士は知っていた。
 世界各国の例から明らかであるように、本来バレンタインデーはチョコレートを渡す日ではない。起源とされる聖バレンティヌスとチョコレートは何の関係も無いし、一般的には他の菓子や花束を贈っても良いのだ。それが日本では何故かチョコレートに限定され、義理チョコや友チョコなどと汎用化されている。
 つまりはチョコレート会社の思う壺だ、と博士は冷めた目で、宣伝用に立てられたピンク色の旗を見た。ハッピーバレンタイン!!!とやたら感嘆符の多い売り文句は、人々の興奮を如実に表すようである。首尾良く乗せられているというのに、なんと呑気な有様であろうか。
 ありとあらゆる学問に造詣の深い博士は、早々に真理を悟っていた。すなわち、人間は愚かなのである。くだらないイベントに浮足立ち、一喜一憂してしまう。そもそも所詮はただの販売戦略なのだから、気に留める方が馬鹿らしいのだ。

 無意識に帰路を辿っていた足が、玄関の前で止まる。身分相応の立派な家は彼一人のためのものである。
 鍵を取り出しながら、博士の視線は郵便受けに注がれていた。普段と同じく、入っているのは学会の案内や取材依頼の茶封筒。
 甘い匂いもしない書斎。チョコレートを口にしないバレンタイン。
 何も間違ってはいない。先程出したばかりの結論そのまま、賢く過ごしているだけだ。
 しかし、と博士は猫背をさらに丸めた。北風が吹き抜けるような胸の感覚は何だろう。最高峰の学識を以てしても、博士はこの矛盾を解くことができなかった。

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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No title

読ませていただきました。

季節先取りのネタですね。この博士、一度もチョコレート貰ったことがないんでしょうかね。どうぞ、と言われたら断るのかな。
まあ、人間は愚かというので全て言い尽くされている気がしますが。
心理学を極めれば矛盾も解ける気が。

面白かったです。

Re: No title

コメントありがとうございます。
心理学、確かにそれも学問の一つですね。
夜中に思いついて一発書きしたものなので、私の文章自体が矛盾していたような気もします(^_^;)
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ばにら

Author:ばにら
マイペースな20代女。
猫とヒヨコが好きです。

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