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創作小説 「願い事」

 中学二年生の時、彼は病にかかっていた。いわゆる中二病。しかも、かなり重度の患者だ。
 私がそのことに気づいたのは、林間学校のキャンプファイヤーの時だった。普段は見られないような、満天の星空。流れ星だ、という誰かの声を皮切りに、皆が願い事を唱え始める。
 部活の大会で優勝できますように。成績が上がりますように。女子ははしゃぎ、男子はネタに走る。特に思い浮かばなかった私は、家族みんなが幸せに過ごせますように、とだけ呟いて、終礼場所に並ぼうとしていた。彼に鼻で笑われるまでは。
「フッ、まるでくだらないな」
 背後から聞こえた声に振り向くと、彼がやれやれと肩をすくめている。馬鹿にされた私は、睨みつけながら彼にも願い事を尋ねた。
 彼はさらに額に手をあて、困ったものだ、なんて顔をする。
「この世界を救うには、僕が願わなければならないようだ。太陽系の破滅、そして再生。多くの犠牲を払うことになるが、闇からまた光は生まれる……」
 そこまで話して、喋り過ぎたとばかりに口を手で覆う。凍りついた空気を溶かすように、スピーカーから流れだす『蛍の光』。集合、解散、すれ違いざまにも、私は彼と目を合わせなかった。

 高校二年生の時、彼は再び病にかかっていた。いわゆる高二病。しかも、かなり重度の患者だ。
 私がそのことに気づいたのは、彼と同じ軽音楽部で七夕パーティーを開いた時だった。部長と副部長が持ち込んだ笹に、画用紙の短冊を吊るしていく。願い事、といえば当然私はあの悪夢を思い出す訳で、そっと彼の短冊を覗きこんだ。
 だらしなく制服を着て、イヤホンを耳に当てたままの彼。随分大きくなった背中越しに、見えた願い事は相変わらず。
「魂の歌が、日本中に届きますように」
 思わず吹き出した私を、彼は鋭い目つきで咎めた。イヤホンを外し、気怠そうにつけ加える。
「俺、音楽で食っていくつもりだから。今に日本中に届くから、俺の魂の歌」
 大真面目に宣言して、ゲーム機を取り出す。間もなく、勢いよく乗り込んできた生活指導主任。途端にしどろもどろの彼を差し置き、私は複雑な気持ちでいた。

 大学二年生の時、また彼は病にかかっていた。いわゆる大二病。しかも、かなり重度の患者だ。
 私がそのことに気づいたのは、付き合い始めてすぐだった。腐れ縁だった変人が、いつのまにか気になっていたと、思い知ったのは卒業してからだ。しばらくぶりに連絡を取り、二つ返事で付き合いが決まり、成人式前の正月にはデートで初詣に行った。
 長い参拝待ちの列で、彼はやたらと喋っていた。酒の話、洋楽の話、政治の話。金髪にピアス、明るく続ける彼の隣で、私はただ黙っている。
 ようやく順番がまわってきて、彼はガラガラと鈴を鳴らした。
「景気が回復して、就職もちゃんと決まりますように!」
 終始おどけた調子で、どこまで本気なのか分からない。不安と緊張を抱えながら、私も願い事を口にする。
「この人と、ずっと一緒にいられますように」
 消える賑やかな人の声。時が止まってしまったかのように、彼は固まった。
 やはり、重い女と感じただろうか。後悔に胸を詰まらせ、うつむいていると、もう一度ガラガラと鈴が揺れた。
「さっきのは、取り消し。俺も今のでお願いします」

 あれから、長い月日が流れた。結婚、出産、共に歩んできたのはありふれた人生。
 息子が小学二年生の今、またまた彼は病にかかっている。いわゆる癌。しかも、かなり重度の患者だ。
 緊急入院と告げられるまで、私はそのことに気づかなかった。クリスマス間際の年の暮れ、簡素なツリーが飾られた個室に、痩せた彼が横たわっている。息子は外で貰ってきたらしい星の飾りを広げて、サインペンを取り出した。
 幼い瞳は一大イベントを前に輝いている。キュッキュッと小さな手が綴っていく文字は、希望に満ち溢れた願い事。サッカー選手になれますように。パイロットになれますように。お医者さんになれますように。金色の大きな星飾りには、世界をすくえますように、と聞き覚えのある文句まで書かれている。
 ふと手を止めた息子は顔を上げ、彼にも願い事を尋ねた。彼は少し考えてから、折れそうな上半身を起こす。
「……家族みんなが幸せに過ごせますように、かな」
 正確に時を刻む針の音。ネオンが彩る窓の向こうを、走り過ぎていく電車。
 フツーすぎるよ、と頬を膨らませた息子にも、いつか分かる日が来るのだろう。

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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No title

こんにちは、考えるコミュニティからお邪魔させていただきました。

数分で読めて、読み手に何かしらの想いを抱かせる小説…すごいと思いました。
私もブログやってますが、自分の文章で何かを人に伝えられているのかどうか、まだ分かりません。

ぜひ、楽しんで続けてください(^^)/

Re: No title

コメントありがとうございます。
お褒めの言葉頂きまして、とても嬉しいです(*^_^*)
文章で何かを人に伝えるというのは、難しいことですよね。
これからも試行錯誤で良い小説を目指したいと思っています。

No title

読ませていただきました。

彼の最後の願い事は、中二の時彼女が言ったことを覚えていてのことなんですか?それとも偶然同じになった?

覚えていたのなら、彼はその頃からすでに彼女を意識していた、ということでいいのでしょうか。

いいお話でした。彼が長生きすることをお祈りします。

Re: No title

コメントありがとうございます。
最後の願い事、どちらと決めて書いた訳ではないんですが、覚えていて言ったとしたらロマンティックですね。
昔から意識していた彼女との純愛物語と受け取って頂いても、辻褄は合うかなと思います。
彼には長生きして、幸せな家庭を築き続けてほしいです。
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ばにら

Author:ばにら
マイペースな20代女。
猫とヒヨコが好きです。

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