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創作小説 「優しい先生」

 都心のとある中学校に、学級崩壊を絵に描いたようなクラスがあった。
 授業を聞かない、喧嘩やいじめは日常茶飯事。加えてボヤ騒ぎや盗難など、警察沙汰のトラブルも毎月発生している。教師がいくら厳しく指導をしようとしても、生徒たちに嫌われたが最後、徹底的に反発され辞職へ追い込まれてしまう始末。二度の担任交代を重く見た学校側は、副担任制を導入することにした。

 そのクラスへ新たにやって来たのは、熱血風の中年担任と美人で若い副担任。あまりの荒んだ有様に、当然担任は喉を嗄らす。
「静かに授業を聞け!そこ、立ち歩くな!」
「すぐに殴りかかるんじゃない、話し合って解決しろ!」
「やっていいことと悪いことを考えろ!」
 口うるさい担任を、生徒たちは睨みつけ無視する。暖簾に腕押し、かと思えば背後から物を投げつけられ、またも担任が嫌われているのは明白だった。
 対して、副担任は好評である。なぜなら彼女は優しいからだ。
「つまらないかもしれないけど、ここは試験に出すからしっかり聞いてね」
 こうやって最低限の注意はするが、決して怒鳴りつけたりはしない。やんちゃな生徒も包み込むかのような柔らかい笑顔を悪く捉える者はいなかった。授業は比較的スムーズに進み、易しいテストのため落第点を取る生徒もおらず、教務部の先生は胸を撫で下ろしている。
「やっぱり優しい先生がいいよな」
 副担任がホームルームを終えると、生徒たちは口々にそう言った。褒められても得意げにせず、副担任は教室を出て行く。

 放課後は、一層生徒たちが解き放たれる時間だ。担任副担任はそれぞれ、東棟と西棟で見回りをする。長年の勘から担任はすぐに、教え子たちが隠れている場所を探し当てることができた。
 美術室横の人気のない男子トイレ。うっすらと漂う煙は、未成年が吸ってよい物ではない。
「お前ら、何してるんだ!」
 煙草をくわえ談笑していた生徒たちは、素早く担任の脇をすり抜けた。捕まえられるものなら捕まえてみろ、といった調子で階段を駆け下りていく。
 必死で追いかける担任の頭には、真っ先に心配がよぎっていた。慣れない煙草を吸った後で全力疾走なんかして、倒れたらどうする。体がきちんと成育しなかったらどうする。将来を考えれば考えるほど、担任は焦りに突き動かされる。そしてそれは、足のもつれとなって表れた。

 その頃、副担任も同じく喫煙生徒を見つけていた。
 校舎裏の木陰に座り込んだ女子たち。盛り上がっているところを、まさか斜向かいの三階の窓から眺められているとは思ってもいないのだろう。
 副担任は少しの間、そこで足を止めていた。まるで遠い異国の可哀想な子供を憐れむような、あるいは車道へ飛び出していく野良猫を見送るような眼差し。一つ瞬きをして、逆方向へ巡回を続ける。
 教師の仕事とは本来、勉強を教えることだ。その責務はきちんと果たしている。自ら厄介事に首を突っ込むなんて、まったく非効率で不必要な愚行ではないか。
 指定ルートを通って職員室へ戻ると、先生たちが青い顔で頭を抱えていた。副担任の嫌な予感は的中し、救急車のサイレンが次第に近づいてくる。

「たいへん残念な話ですが、担任の先生は入院のため、しばらく休職なさいます」
 朝礼の後、学年主任が事務的にそう伝えると、生徒たちは喜びの雄叫びをあげた。
「担任がいなくなったら、副担任が担任になるんだよね?」
「ラッキー、俺ずっとそうなればいいのにって祈ってた」
「それ、呪ってたの間違いでしょ」
 こだまする歓声は副担任を快く迎え入れている。そう、優しい先生を。
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テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

創作小説 「死刑囚」

 澄んだ初冬の晴天に、群れをなした鳥達の影。旋回したその教会塔を下れば、町一番の市場広場が広がる。普段は馬車の行き交う空間が、今日は人で埋め尽くされていた。
 中央めがけて飛び交うのは、小石や酒瓶という異様な光景。まるで祭りのような賑わいの、メインイベントは公開処刑だ。

「悪人に死の制裁を!」
 野次馬の一人が拳を突き上げたために、男は周囲と肩をぶつけた。面白半分で人混みに来たことを悔やみつつ、なお処刑台上の晒し者を見てみようとする。
「容赦はいらねえ、やっちまえ!」
 眼前にあった禿げ頭が動いて、死刑囚の靴がちらりと覗いた。男は何度か瞬いて、自分の足元に視線を落とす。
 よく似た焦げ茶色の靴。
 そういえば、と男は思い出した。この靴を買った店の向かいにあったのが、強盗殺人に遭った富豪の家だったっけ。おぼろげな記憶を辿ってみれば、確かに立派な門構えの家だった気がする。なけなしの金をはたいて靴を買い、腹を空かせていたところへ漂ってきた美酒佳肴の香り。半円窓の向こうに一瞬、男も嫉妬と憎悪を感じた。
 だからといって、犯罪者に同情する訳ではない。右に倣って、男は小石を拾い上げる。

「本当、本当に気の迷いだったんだ!」
 助けを求める死刑囚の声は、虚しく民衆をすり抜けた。鼠を前にした猫のように、ただ攻撃に集中する人々。男も真似ようと試みるが、甲高く響く耳鳴りのせいで、いまいち狙いが定まらない。
 気の迷い、きっとそうだったんだろう。富豪の家の軒先で、立ち尽くしていた自分も気持ちは分かる。壁一枚隔てた先に、満腹になれる食事と暖かいベッド、数日では消えぬ貯えがあるのだ。抑えきれない衝動が、男の背を押していた。
 息を殺して、そっと裏口へ回り込む。指先に触れる、木の扉。
 しかし、男はそこまでだった。ちょうど教会塔の鐘が鳴ったのである。けたたましい音に背筋を震わせた男は、なんちゃってね、と踵を返していた。

「この屑野郎、死んで詫びろよ!」
 隣の野次馬の罵声で、男はハッと我に返った。周囲の熱気はエスカレートしていて、いつのまにか皆が死刑囚に物をぶつけている。
 男は頬に伝う汗を拭い、改めて小石を握りしめた。躊躇う必要などあるものか。耳鳴りを断ち切るように力強く、男は手の内のそれを死刑囚の方へ投げつける。

 小石の軌道を避け、徐々に人波が割れていく。
 死刑囚の靴しか捉えられていなかった瞳に、映り込む足、服、腕、首、男と瓜二つの顔。
 額に向かって飛ぶ小石を、遮るものは何もない。速まる鼓動を感じながら、男は思わず目を瞑った。

 さて、あの時もしも鐘が鳴っていなかったら?

テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

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苦手な方は閲覧をお控え下さい。

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その他二次創作作品もpixivに置いております。
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テーマ : 二次創作
ジャンル : 小説・文学

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マイペースな20代女。
猫とヒヨコが好きです。

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